08,10,24 13 years エンゲージホワイト
私とあなたはその時いつも通り部屋に集まっていた。
私はたくさんの本とCDカセットなんかをもって、
あなたには流すための機械を持たせていた。
「このなかから決める…んだよ、な?」
そういったあなたに私は笑いかける。
「ふふ、そうよ。私もここから選んだんだから。」
廊下で、癖のようにステップを踏むと、貴方もそのうえから、ポワントでなぞった。
頭の上に少し乗っけてみたりして、少し長めの廊下をすすみ、まがって、…………奥の方。カーテンをくぐって、隠された部屋に入る。
…………そこは、最近私のになると決まった、日が差すまどと、白い大きなカーテンのある部屋だった。
二人で大きめの本をみる。
「あ、……おかあさんの」
言い直そうとして、口を少しひねったあなた。指さした先には、「カルメン」のあらすじと音楽家、とか。知らない名前がずらりと並んでいた。
「ふふ、そうね。「カルメン」先輩のだわ。」
わたしが、あの人の手をなぞると、あなたもえへへ、って笑って、
「ひゅって、するんだよな。へへ。」
そのとおりに、足を延ばした。
カーテンにあたって、布のこすれる音がする。
あなたが拍手をした。
少し誇らしくて、一例をする。
あなたが笑う。私も笑う。
そして、床にまた寝転がって、本に戻った。
ペラペラと、ページをめくる。貴方が見ている場所を、たどる。
「あ、「クララ」先生の」
「ほんとだ、師匠のだ。」
「ししょー?……ふふ、変なあだ名。」
「違うんすよー、ついてった、レストラン?の食堂から、大きな声で師匠!って聞こえて。聞いたら、なんか、先輩の別名だとかって。」
…………?
「それ、役職名の代わり、じゃないかしら。」
「…へ。…………」
あ、真っ赤になった。ふふふふ。
面白くて、ついついからかいたくなる。
「おばかさんね。まったく。」
「………知ってたっすよ。」
あ、むくれたー。
カーテンのほうに隠れる彼を追って、私もそこにのっかる。
大人用のベットはとても大きい。
どうせだし、と本を持ってきて、二人でそこに座る。
………カーテンは、薄いベールのようにかぶさった。
「………ほら、続き。■■■■■■。」
音がかすんだ。
呼ぶと、彼は顔をひょっこりと出して、また、本をめくる。
紙の子気味のいい音。
少し古い本のいいにおい。
差し込んでくる、柔らかい日差しに、あなたの瞳が太陽みたいに光った。
「………あれ。」
彼が少し焦げたような色で、とある演目を指さした。
「これ、オーロラの?」
確かに、そこには「眠れる森の美女」が載っていた。
「そうね」
私も改めて読み直す。
三部にわかれているそのお話は、初めにお姫様が眠るまでの成長を踊り、次に王子様がそれを助けに来て、あとは結婚式をするっていう、なんともメルヘンでおめでたい話だった。
「…………。」
私はそこまで興味はなかった。だって、こんなにうまくいくはずがない。
呪いを軽くする呪文は間に合わないし、お城全員眠ったらだれもちかよらなくなるし、王子様なんて来るはずがないんだから。
ただ、「カルメン」さんはこの演目を指さしたときに、こういった。
「気品が高く、愛想がよい。私はむりでしたけど、貴方は向いてそうね。」
だからそれを着ただけだったのに、あなたはそれを真剣によんでいた。
そして、なぜか、少し目をそらした。
「………なに?」
不安になって尋ねる。
が、あなたにはそんな緊張感はなかった。
「いや、確かに、…………へへ、てれる、けど。
こういうアクセサリーとかしても、似合うっすもんね。」
なんて、指さして、カーテンの向こうで言うんだ。
…………別に、化粧のないところだって、知ってるはずなのに。
……。
わからない、けど。すこし、こそばゆくて。
カーテンを私も被った。
「…………えと、」
そういえば、この演目には王子様がいて。……なんて考えて、本を見る。
………………。
ベールをかぶった景色から見えるあなたは、たしかに、やわらかくて。
……ふれたくて、てを、そっとのばした。
…………あなたは、
それをみて、めをそらしながら、それを、きゅっと、握った。
ふしぎと、痛くなかった。
まるで魔法でもかかったんじゃないかと思うくらい、すんなりと指を絡ませる。
あなたもそれに合わせる。
横目で向いたら、目が合って、
「………へへへ」
わらいながら、貴方は頭をもう片方の手でかいて。
もしも、あなたが、ここに来てくれたら、なんて。
夢を見て、しまって。
…………。
カーテンが大きな風にあおられて、大きく広がった。
あなたは、そのままうごかなかった。
……きれいな白だった。
…………。
……崩れるのが、怖い。
………わたしは、ゆっくりと手を、はなした。