21,06,14 Day11 ちいさなおいのり
103の配属。
………あの子の、場所だ。
作業によってできたらしい装備も、偶然あの子のだった。作業回数に応じてできるらしい。それにしては、動きやすく使いやすくて。もともと着ていたかのように、それはすんなりと私の形をとった。
……足ごとくるんで形になった、荊のバレエシューズ。
…………そういえば、戦闘の時の靴は赤かったな、なんて考える。
あれも、よくなじんだっけ。たしか、誰かに、ほめられた気がする。……誰だっけな。
覚えてない。
とりあえず、仕事のためにドアを開けた。
…………その小さな怪物は、相変わらずそこにいた。
当たり前だけど、どこか普通ではないような、感覚。
触れないように、距離を保って、座った。
あなたの顔を見た。視線が、服に向いた。
「……そう。貴方の服よ。…………どう?」
なんで怪物に服の評価なんか聞いてるんだろう、なんて思いながら、それでもおしゃべりは止まらなくて。
「なんだか、影響があるとか、怖い話は聞くけれど。でも、もともと痛かったら同じでしょ?……すごい使いやすいわ。」
文字通り、体の一部のように動く足を、ぱたぱたと動かす。
しゅるしゅると、動くおかげで足音が最小限になる。
………なんだか、何も攻撃をしてこないのがおかしくて、ごろん、と転がってあなたを見る。よく考えればこうすればあなたの顔が見えるんだな、なんて。
小さく見える、ケープの白と、そこそこ主張している小さな鐘。
紙袋に書いてあるお目目と、脱走すると見える、
白い、髪の毛。赤い、小さい荊……と紐が、何個かある。
「それ、よくみるとリボンなのね。」
…………なんでこんなに話しかけているんだろう、とか、考えながら。
…………。
やっぱり、もう一回座り直す。
すっと、見つめる。
…………このまえのことが、あったからか。貴方のことが、遠い怪物の話とは、思えなくなって。
「……このまえ、は、ごめんなさい、ね。」
じっと、みつめながら、言葉を作っていく。
自分に、言い聞かせるみたいに。
あなたの瞳が、こっちをむいた。
にらみつけるでもなく、そのまんまだ。
………それが、どうにもいたたまれなくて。
なんとなく、手を組んで、目をつぶった。
祈ってる、みたいに。
「…………わたし。」
力が入る。何も見たくなかった。でも、それでも、口を開いた。
「………………」
何にも許されやしないのに。
「………あのこのこと、…………傷つけそうに、なった……。」
……そのまま、言葉を吐き出した。
「……じぶん、とか、じゃ。ないの。…………かってに、……うごくの。」
…………荊が、動いた。
「………とりあえず、なんとか、なった、けど…………もし、……」
……。
「ほんとに、殺しちゃったら…………どうしよう……」
荊は、ゆっくり、私のほうに来て。
そのまま、頬を撫でた。
すると、息苦しさは、すっとした、痛覚だけになって。
目を開けた。
あなたはその顔を、紙袋で隠していた。
ただ、貴方の手はこっちに来ていて、ゆっくりと離れて、手をなぞった。
…………。
「…………。」
わたしは、その手を握った。
背中から、パタパタと音がした。くいっと、後ろに引っ張られて、気が付く。
背中に、荊が生えている。
上のほうは、丸くて。下が、そでを引いて。
「……何。……リボン、なの?」
………あなたが、頷いた気がした。
立ってみる。後ろを、見る。
確かに、蝶々結びだ。少し、首にもあるけど、そのくらい大したことじゃない。
…………。
「ただ、痛いだけより、よっぽどいいわ。………。
ありがと、…………。」
声をかけた。ら、
「…………笑うなよ。」
とだけ言って、いつも通りはじき返される。
でも、しりもちをついただけ、だった。
「……だって、…………勝手に笑っちゃうんですもの。知らないわ。」
時間が来たから、離れて立って。
手を振ったら、貴方も少し、手を振り返した気がした。