21,06,01 Day1 業務
夢だと思っていた。ただ、考えよりも簡単に業務は開始され、たくさんの人が粛々と作業を行っていた。
適当に化け物の相手をしていく仕事らしい。
案外初めが上手く行ったからどうせだし媚でも売っとこうかと、次のところに行った。
扉を開いたらなんだかキラキラとしたよく分からないものがまたそこにいた。
何かを感じた、と、ともに悪寒が走った。
「ねぇ」 その化け物はゆらゆらと揺れたまんま変なことを言う。
「大丈夫よ、そんなに怖がらなくても」
反吐が出そうなほど甘い声だ。意味がわからない。今直視しただけじゃないか。
何を知っているっていうの? それはゆらりゆらりと近づいて 近づいて。 わ、わた、わたしの、かた。
かたにふれたときそのひとはだれかにたんたんとこういいました、きょうははながたもうわだまもいなかったんだおまえはこのことばのいみをわかっているだろう?
「来るなよ気持ち悪い!」
だれかはそれにしたがってこうべをたれました。うえからそそがれたのはなんだったんでしょうか。
足で蹴ると共に思い出す得体の知れない何か。何か。何か。何か。
ぐちゃぐちゃになっていく自分自身。 なんとなく直感した。
なるほどこれがあの男の言っていた仕事なんだ。
生き返るとか言ってたのも全部餌でしかないんだ。
私は、私は、私は。私は。私?
体のきしむ音。
初期位置に戻ったみたいだ。最悪だ。反射を使って顔をみた。特に変化はない。もしかして死んだから?まさか。
一応、いつも持っているベビーパウダーを頬にまぶしておく。
表面を滑らかにして、口紅の分だけ上手く調整して。
見直す。整え直す。色をきちんと纏う。
大丈夫、私はちゃんと「オーロラ」だ。
息を吐いて、また仕事現場へ、
と。
さっきより、あからさまに様子が変な「さっきのひと」。
少しの安心と、諦めと、それと、なんとなくおかしい状態なんだ、って言うのを感じ取って。
あの人もちゃんと人なんだ。
予想通り、支給品の振り回し方も、事務所だったら雑って言われそうで。
息を整えて、聞こえないように、こっそりと
「『お待ちになって。』」
足を引っ掛けて後頭部に支給品を当てる。
命中。倒れた。
……まだ腕はなまってなさそうで、よかったけど。
変な機械に通知がはいった。
モルゲンレーテ。
ふーん。
元通りの機械っぽい顔に戻った彼女に、今気が付いたように話しかける。
「……あれ、貴方じゃない。」
「……?あ、貴方でしたか」
ぽんやりとした顔が、雰囲気そのままで面白い。
「ありがとうございます。お礼に本日の食事は私の奢りということで……」
食事?といわれてああ、そういえばそんな施設あるらしいなと考えた。
けど、やれとも言われてないし、……行きたくないし。
それに。
「……別にいい。」
「そうですか。ではまた今度別の埋め合わせを」
「というか、何この会社。元からこんなに悪趣味なの?」
変えたとか止まってるとか言ってた割に、最初から最悪だし。
そしたら、何ともなしに不思議さんはこう返すし。
「……まあ、はい。以前はもう少しましだったような気もしますが。お疲れですか?」
……お疲れですかもなにも。
「……なんでそんなになんともないのよ。さっきまで殴ろうとしてたくせに」
何ここ。
化け物も悪夢みたいだし、なにより人間が分からなくなりそうで、嫌だ。
……。
なんとなく、しかめてしまったんだろうか。彼女はそんな私を見て、
「すみません。ですが貴方のおかげで貴方を傷つけずに済みました。改めてありがとうございます。この環境については……」
とんだお世辞を言ってきた。お世辞?にしては私のことについて述べているし、なんだそれは。その後いろいろ言っていたことが入らないじゃない。
「……。」
敵意ゼロ。むしろ、猫とか、そういうのみたいな柔らかいものを感じる。
……。
こそばゆくて、礼儀にのっとって、足を交差して、ゆっくり、手をすこしだけ伸ばして整えて、お辞儀をした。
……。
殺そうとしてきたのに、元の人はこれで、環境で、化け物だらけで、なのに能天気な考えで。
頭がおかしくなりそうだ。
……切り替え、切り替え。
「……そ。はぁ。ま、とりあえずやることやりましょ」
「はい、もう少し頑張りましょう。お疲れ様です。」
……。
とっとと休みたい。そうやって離れようとして、また彼女が目に入った。
私の動作をたどった、つたないお辞儀をしていた。
……。
不思議と、嫌じゃなかった。