21,06,29 Day20-1 ふへんのろうごく
そのままあなたをおいてへやをでた。
あなたがはなしかけるのをみていた。
かえすけんりなんてなかった。
あなたがわらっていた。
あなたがわたしのことをよびとめようとしたからいそいでにげた。
すべてがいたかった。
たすけないでほしかった。
助けようとした手を振り払ったのもわたし。
その手を出した本人を傷つけたのもわたし。
それからなんにも聞かなかったのもわたし。
廊下を走った。
歩いても走っても変わりやしなかった。
彼の笑顔を壊したのも、わたし。
乗っ取られたのに抵抗できなかったなんて言い訳だ。
全部私だ。私が、殺したんだ。
事故だったって?
そうしたかったからそうしたくせに。
そうしなきゃいけなかったって?
いいだしたのは「おばけ」だって?
なら、「おばけ」なんていなくなればいいよ。
……ころなさければ。
かいぶつを、ころさなければ。
ゆるしてはいけない。
わたしは、ゆるさないことをしたんだから。
あなたの優しい笑顔が思い浮かぶ。
小さく、でも、確実にはなさないでいてくれた手を思い出す。
その言葉を思い出す。
やわらかさを、溶けるようなあたたかさを、名前を呼ぶ声を、
揺れるベールを。
…………。
すべて、じぶんの、せいだ。
浮遊する、海を覗き込む。
一番初めからやり直してしまえばあんなことしなくてすんだんだろうか。なら、早くわたしを、すべてを水の中に沈めてしまえばいい。なんにもなくなればいい。海にもどって、世界ごと、元の「なにもない」状態に還ってしまえばいい。
顔を、身体を水の中に突っ込んで、無理やり息を吐く。
そのまま息が出来なくなって何もできなくなればいい。
もともと何もなかったんだからそのまんま死んですべて溶けてしまえばいい。
このままもとにもどらせて、ねむらせて、すべてを許さないでほしいと思ったのに、中にいる小さい妖精はわたしをそこから出した。
息苦しさは、肺を割く激痛になって元に戻って、酸素がまた生かしてしまう。
「どうして」
いっても眠っている小さなかげを引き裂いてしまいたいと思った。
でも、それは動かなかった。
「どうして」
生まれなかった小さなわたしが、そこで何も知らず眠っている。
ゆるされるわけがないのに。
眠っていたからといって、言い訳に過ぎない。
わたしは殺されないといけない。殺せ、殺せ、怪物を。
あなたの面影を追っていた。
あなたがわたしのほうを見て大丈夫だって言ってくれた。
あなたはわたしが化け物じゃないって信じてくれていた。
なのに、わたしがそれを信じ切れなかった。私は貴方を殺した。
あの瞬間も、思っていたのはわたしのことだけで。
わたしが、あなたのことを、もっと、かんがえていれば?
もっと、かんがえて、もっと、わかって、いれば、
わたしは穴を覗き込んだ。
するとあなたは私ごとひっくりかえって私はどこにもいなくなった。
「おばけ」がわたしになって、「わたし」がすべてをこわして。
…………何にもなくなって。
なのに、また、ここにいた。戻ってきてしまった。
「どうして」
ひっくり返しても
全てを台無しにしても
まだそこに残ろうとするなら
そんなやつは居なくなればいいんだ
どうしてまだそこにいるゆるさない、ゆるさない、全部。
全部ぶち壊したのになんで平然としてるの?
ありえない。
早く。
もう1回。
全部無くなるまで。
紫の光から視線を感じる触れようとした手を払いのけてなのにそれは触れてだから拒んだ。
さわらないで
さわらないで…………おねがいだから。
祈っても意味なんかなかった。それはわたしを追いかけてくる。
頭を壁にぶつける。
痛みで頭を誤魔化しても中身まで何も変わりはしない。
頭をすべてを水の中に沈める。
早く中身ごと洗って欲しいのにどうしてそんな軽いことしかしてくれないの
そのまま強くたたきつける。意識が消えない。
私が消えてくれない。
どうして許さないゆるさないころしてやるだれを
わたしがいない。わたしはけしたはずだ。
だれもいないわたしいがいにだれもいないころしてもしなないころせない
………ゆるしてくれ、ない。
ゆるさない。
あたまをたたきつける。
こえがきこえる。
わたしが、なにしたっていうの。
こえがきこえる。
わたしは、なにもしてないはずなのに
こえがきこえる。
わたし、うまれてから、ずっと、なにもできなかったのに。
たたきつけるおと
わたしがなにをしたの
くだけるおと
わたし
ガラスのわれるおと
わたし
ゆるさないとどなるこえ
わたし
いきおいよくあふれでるあか
わたし
とどかないあなたのひかりあなたのえがお
わたし、うまれるいがい、なにか、わるいこと、した?
「……………。」
きがつくと、わたしはたっている。
まえにはかいぶつがいる。
いや、わたしだ。
「絶対に死ねない呪いをかけてあげる。これでもう怖くないね、“ぼく”のお友達」
こえがする
こえが
わたしのなかで、そとで、こえがする
や やだ ゆるして
わたしがわたしをこうげきする
ゆるさない ぜんぶこわして こわしてやる
わたしはそんなのいたくなくてわたしをぶちのめす
いやだ こわさないで ゆるさない やだ やだ
わたしがさけぶわたしがひきずるわたしがころす
ころして ころさないで
わたしはわたしをころすわたしのにくをさくわたしのほねをくだく
ころしてやる ころしてやる、
わたしはわたしを、ゆるさない。
ゆるさない、
ゆるさない。
『だいじょうぶ。どんなにこわくても きみはしなないんだから。なにもこわくないよ。誰も君を害せないんだから』
こえがする。これはわたしじゃない。
わたしが、こわい?こわくない?
わたしが、ころせない。ころされない。
わたしが、わたしを、害せない?
生き返るからだ。
動かせない自分。
消えない怪物。
えいえんに、つきまとう、わたし。
その言葉で、ようやく理解した
……これ自体が
えいえんに、ゆるされないこと、じたいが……
………すべてが、わたしが……うまれた…ことの………ばつで………
わたしは………えいえんに……
ふつうの、しあわせな、おんなのこになんか…………
……。
…………。
わたしをねむりからさまさないで。
そのまま、しなせて。
なにも、なかった、ことに。
なんて、ならなくて。
…………そのまま、身体を引きずった。