21,06,01 Day1 業務前 「ユウジン」契約と機械人
夢だと思っていた。
変な人が「生き返る権利」だとか、何とか、よくわからない言葉でまくし立てる。
とりあえずそれを、受け止めて、話を聞く。
なるほど。とりあえず化け物の管理をして、働けばそれでいいみたい。
ほかに選ぶものもないみたいだ。
そうして、そのまんま受け入れた。
次に目覚めたのは、無機質で収まりのよい箱の中。しいてあるクッションの感触が、変にあったまって気持ち悪かった。すぐに起き上がる。と、隣に誰かいる。
……急いで確認した。
大丈夫、ちゃんと「オーロラ」だ。
と、
「おはよう……ございます?」
誰かの声がして反射的に振り返る。目を向ける。大き目、女の人……怒ってはない。同じような体制だからすぐではなくて、この体制だとろくに戦えないのではないか、武器はとりあえず箱と、布と……。
……私を見て、キョトンとするだれか。そして、
「よろしくお願いしますね」
なんて、挨拶をして……ああ、そういえば会社で、ってことは、メンバーってことか。……そんなにすぐには攻撃してこないよね、なら。
軽く、頷く。
「……ここ、どうなっているんでしょうね」
随分ゆっくり周りを見渡している、その人。油断だらけで、まあ、その分私には怖くないみたいなんだけれど、フワフワしている。髪がすごい、長いし全部編み込んでる。白と、黒。筋力は見た目から判断できるくらいではないし、そこまで動いている人の体じゃないみたい。……いざとなったら、殺せる、くらい。
と、こっちを見た。目も、白黒なんだ。
……かおあわせない、おちついて、落ち着いて。
「貴方もZ社で働いていましたか。」
聞かれた。Z社……?ここ、そんな名前なんだ。
首を振る。そして、この人はたぶん、ここで昔から働いていたんだって思った。だから攻撃してこないのかもしれない。少しわかった。この会社の人、ってことは先輩で、いじめてこないし殺しに来ないってことは、全員が敵っていうわけじゃないんだなってわかる。……ええと
「……声、出ませんか」
??
気がつけば勝手に間合いを詰められていたので少し下がる。
話してほしいの?よくわからない。何故?
「……でる、わよ」
反応に瞬きする女の人。
また、なんだか話そうとしてくる……というか。聞いてくる……というか。何故?そっちのほうが先輩じゃない。詳しいでしょう。何を聞く必要が?
「……と、いうか。なんでそんなに聞いてくるの?」
あっ。
つい、言葉を話してしまった。
しかし別に何も飛んでこなかった。何もされなかった。
それが冷たくて、空気が流れて。そこに、相手は機械のように言葉を発した。
「知りたいと思いました。私は貴方のことを何も知りませんし、見ているだけではわからなかったので。……貴方も私に質問をしたということは、私のことを知りたいと思ったのではないのですか?」
淡々と述べられる。知りたい?いや、なんで私のことなんか。そもそも今あったただの他人じゃない。そんなに来るものなの?
変な人。
「いや、その…だって、よくわからない、から。」
ご希望は、知る?ってことは、情報?
「知って、どうするの……?……お金には、ならないけど。」
死んでるからなんも取れないし、利用するならもっと強い人がいるだろうし、それこそ、会社いたんだから。
そしたら、なぜか相手はその言葉に対して首をかしげる。
「なぜお金の話に?どうもしません。貴方のことを知ることが目的なので。……知って、私のことも知っていただければ?いわゆる友人というものになるのでしょうか。」
ユウジン?……なんか、聞いたことはある。確か、……ええと。先輩が言ってたのは、上下関係なく、お話したりする、関係だっけ。わからない。まあ、不当な関係では、なさそう?
……それにしても。知っておわりなんて、どういうことなんだろう。
理解できない。
「……それが目的?……そう。……友人?
……えと。
……要するに、こう、話したりすればいいのね?先輩とかみたいに。」
ユウジン。お酒かお薬みたいな名前。
なによりも、そこまで礼儀正しく出来なかったのに、怒りもしないこと人は。やはり変な人だ。その関係も、変な名前だ。
変な人が、かくかくと話す。
「先輩がどなたかは知りませんが、ええ、おそらく。話すだけで友人となれるのかは……私もあまり分かりませんが。貴方が嫌でなければこれでよいのでしょう。
お互いをよく知ることが良き友人への道だと本で読みました。よろしくお願いします。」
かくかく、している割に。ユウジン、は、本で読んだものらしい。
ユウジン、ユウジン、ユウジン。
不思議と、私はこの機械みたいな人をはじく気にならなかった。
わからないけど。
「……まあ、一応……よろしく、なのかしら。ええ。」
わからないから、またゆっくりとその人を見る。
全然かわらない。……大丈夫、なの、かな。
と、前に向けて、その人は手をだした。
少し後ずさりそうになって持ちこたえる。ああ、握手か。
握手は敵意がないことの証明だって、先輩は言ってたけど。それでも、わかる契約かどうかはしっかり見なさいとも、言っていたし。
これが全部嘘とも限らない。……なにより、いや、それは受け入れないといけない。
ゆっくり、
手を、伸ばして、
……すこしだけ、触れた。
それ以上は進まなかった。いや、動かなかった。
ああ、死ぬんだろうななんて。
でも、なぜか相手はゆっくりと言葉をつづけた。
「……嫌でしたか?」
抑揚もない。媚もない。透明な声。
なぜかこちら側に向く興味、しかも、き、気配り?
……ユウジン、って、なに?
なんだか、壊れかけの部屋にいるみたいな気分。
みていられない。
「……明確じゃないし。まだ、内容わかんないもの。」
……いつもの癖で、腕を後ろにして、ナイフ……は今はない。
仕方なくそのまま、着なれない服をなぞった。
それでも相手はむしろなにか、さっきより声に芯がとおっていて。
「む、なるほど。確かにそうですね。まだ不明瞭なことが多いです。ではお互い分かるときが来てから、改めてしましょうか。」
なんていいながら、これ、多分私の真似よね。
……わからない、わからないから、困ってしまう。
はぁ。
でも、あとででいいのね?そう。
「じゃ。その。わかったから。」
そういって、私は業務に向かうように部屋を出る。
「はい、お話ありがとうございました。ではまた明日。」
そんな声が後ろから聞こえた気がする。
……。
下手に殺されはしなさそうだけど、意味が分からない。なんだろう、あの人。
とりあえず、話に来るらしい。話せば、いいの。
……。
指示がわかるだけマシか。