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21,07,08 Day27 練習

書庫に行った。

あなたの演目を探しに。

御目当ての本やらCDやらを探すためだけだから油断したが、すぐにレーテを連れて行けばよかったって後悔した。

ただ、こういうところに芸術本なんてほとんどない。それだけが、絞り込む要素だった。

結果として、見つかったのはノート。

筆跡はギリギリ判別できる。むしろどうやって練習したんだろう。

特にあなたは時間がないはずだし、誰かに習ったのかしら。

きっと部屋に残されていたんだろう録音されたテープには、たしかに言っていた演目が入っていた。

調べ上げて、昨日のあなたを思い出した。

そのあらすじは、結局、私のことしか考えていないようなものだった。

それこそ、まるで、自分に対して、怒ってるみたいな。

どうしても、私のことを、考え続けているような、シナリオで。

…………わたしは。

改めて、もうあそこには戻らないと、決めた。

​わたしも、あなたをきずつけたいわけじゃ、ないんだ。

…………。

​あなたのことが、すきだった、から。

あとは、ひたすら練習。

廊下の隅っこで、人知れず本を広げて、ゆっくりと練習する。

パラレルからアン・ドゥオール。

すっ、と姿勢が伸びる。

足先が張り詰める。

1番から。

開いて、縦に、寄せて、つける。

手が開く。身体が目覚める。

張り詰める。

パラレル。

あっ、少し姿勢が崩れた。

「そこはもうちょい、荒々しくていいんすよ」

あなたの声がする。たしかにこの演目は、お姫様じゃなく。

夢見る女の子の、幽霊なのだった。

もう一度。

動作を繰り返すときにクセが出てくる。

1、2、3、4。

真っ直ぐに。貫き、美しく。

それは私が知ってるものとは違う。

1、2、3、4。

リズムが少しずつはやくなり、いつの間にか流れるようになる。

それでも、ゆっくり、ゆっくりとリズムを刻む。

「祈るように。ってね。」

1、2、3、4、 ピケ・アラベスク。

黒い服には白は似合わない。

シャッセ。

いつもの癖で斜めに回して倒れそうだ。

カブリオール・デリエール。

手を伸ばす。

まるで星に伸ばしてるみたいな手。

コントゥルタン。

もう一度、初めから、ゆっくりと。

あなたの面影を追いかける。

物語を読んだ時に、わからなかったあなたの感情を噛み締める。

いつもよりくっきり見えるあなたと、心の中で通じ合う。

「覚えてるっすか?」

おぼえてるわ。

踊るのは、苦痛だけじゃなくて、ちゃんと楽しいのよね。

だから、繰り返すの。

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