21,06,05 Day4 寄る辺
新しい部門に来た。……退屈な作業をして終わりなはずだったのだけど。
ある部屋に入ったら、とってもかわいい小さい鳥さんがいた。
しかも作業で遊んでいいって。
たまにはこういうのもあるんだ、って思ってゆっくり近づいた。
とりさんは、周りになじむような灰色で、しっぽが長くて、綺麗な羽をもっていた。後ろから光がさしているような気もしてくる。
小さなくちばしで、整えて、私のほうを見る。
……触っても、いいのかな。
「クララ」さんにもらったぬいぐるみみたいに、羽をぽふ、ってする。
逃げなかった。
ゆっくり、なぞる。
かわいい。やわらかい。ふわふわする。
そーっと手を伸ばして、撫でる。かわいい。
動かない。とりさん。
……。
脳みその中で、何かがうごめく音がした。
周りを見た。誰もいない。
とりさんがきれいなまんまるのお目目でわたしをみる。
手のひらに入っちゃうくらいの小ささ。
かわいい。
かわいい。
…………もっと、
もっと、ほしい。
手を伸ばして、うしろから、
あ 逃げられた。
「逃げるな」と声がする。
逃げたの?私から?私はなんもしてないじゃない。
腕がたくさんつかみかかってくる。それを翻して交わす。
もう一度手を伸ばす。また止まらずに頭を抜けて。
怒鳴り声がする。つかまれる。引っ張られる。
なんで。なんで逃げるの?
逃げても無駄だ。殺してやる。
私のこと嫌いなの?私はなにもやってなんかいないわ。
「お前のことなんか大っ嫌いだ。嫌いだからだ。お前が悪い」
どうしてそんな目で私を見るの?拒むの?
「嫌いだ、汚らしい。ちっとも売れ物にすらなりやしないのに」
どうしてよ?わたしじゃない人を見てるの?
お前が悪い、お前が悪いんだ。
そうやって私を殺すの?
殺してやる。
そんなの そんなのゆるせない
許さない、許さない、許さない。
ゆるさない
その時、肌に鋭いものを感じた。
いたっ。
鳥がこちらを向いた先に、たくさんのとげをくちばしに着けて、笑っていた。
たたいた。
こいつついにやり返しやがったぞふざけるなよせいぜいかわいがってやろうと思ったのによころしてやるこういうのはいったんおしえないといけねぇってきまってるんだ
たたいたらおしおきしないとって誰かがいってる。
わからせてやれこいつがわるいんだしめてやれころしてしまえゆるすないかげんにしろくそがきがそもめごとくりぬいてやるよにくにしてうりさばいてもいいんだぞ
ちからをこめる。
わたしは、わたしは、わたしは、わたしは、
わたしは、わたしは。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
ゆるさない。
あなたをゆるさない。
ゆるさない。
追いかける。
逃げた私を追いかけていく。
私を追いかけたあと、それは私の首元を狙う。
当たる音。頭がガンガンして、景色が揺れて、締め付けられて。
景色がゆがんだまま、別の痛みが横をかすめて、焼けるように響いて。
動けなくて、動いた先に、また、ふさがったものが響いて。
許さない、許さない、許さないと
声が。
…………。
……。
気がついたら目の前にとりさんが落ちていた。
……?
しゃがみこんだら、次に目を開けた時にはなくなってた。
わたしが、ころ、した?
…………多分、そうだ。今までもそうだったから。
……でも、どうして、だめなのよ、こんなことしたら。
わかってる。わかってるの。
………なのに、どうして。
覚えていない。
…………なんにも、わからなかった。
いけないことした、いけないことだ、わたしがわるい。誰も言わない。
…………。
……。
鼻の奥が、つーんと、した。
また、そのあと。
とりさんの、へやに、いった。
とりさんは、ふつうにいて。
きれいで、あいまいなはいいろで、きれいなはねで。
……なんだか、とってもかなしくなって。
「ごめんなさい」
そういったら、たてなくなっちゃって。
うごけなくて、しゃがんで、かおがぐちゃぐちゃになって、
なみだがこぼれてやまなくて。
とりさんは、そんなわたしのそばに、とんできて。
てのそばとか、きにしないで、とまって。
ずっと、わたしのほう、すりよって。
なみだを、あつめて。
かえろうとしたとき、かざりと、パンくずをおいて、とびたった。