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21,07,06 Day25 過去形の一点

​今回は別の場所に来ていた。

作業を、する。

肉塊が色々なことを言っていて、よくわからないそれを私は蹴り飛ばさないといけないらしいし。

作業だ。ゆっくり、かつ、弾みをつけて、ポワントをあてていく。

と、その肉塊が言った。

「やめて

おねがい かぞくじゃない」

なにもしらない肉塊に、私が刻んだ傷が残っている。

ただ、今の私にはもう、とんだ記憶も、ぼんやりとした頭もなかった。

家族は、こんなに汚いものでも、ない。

…………。

「うそつき」

私は足でそいつを蹴飛ばした。

それは転がって跡をつくった。

赤い跡だった。

でも、もう、小鳥も、しろも、大事な人も、傍に、いる。

…………。

「これ以上、「おばけ」をわるものにしないで」

そういって、出ていく。

……次の部屋に、はいると。

なんだか、不思議な壁といろんな雑草が生えていた。

ここで起きることは、なんとなく知っていたから、私は静かにすわっていた。

​…………壁の向こうから聞こえる、あなたの、こえ。

「…………へへ。「オーロラ」。思い出してくれたんすね」

「……テレプシコラ。」

あなたがそんな帽子をかぶっていたか、とか。そういう細かいところは変わってしまったけど。

白い髪の毛と、目に閉じ込められた光は確かにあなただった。

わたしはあなたから、冷たい缶の飲み物を受け取る。

「…………ありがと。」

「ん?……へへ。いいんすよ。よかった。」

「……よかったって、何が。」

あなたは、澄んだ瞳をいつものように弓の形にして笑う。

もうずいぶん私より身長が大きくなって、大人になっているみたいだった。

………なのに、中身は変わらなくて。

「全部思い出してくれたから、変な細工しなくて済むだろ。俺は、別に「オーロラ」のこと傷つけたいわけじゃないからさ。」

そのくらい、分かっている。いや。

分かっていた、はずだった。

最後まで、あなたは謝っていただけだったもの。

「…………。」

だまったまんま、何も言えなくなった私に、心を読める不思議なあなたは語る。

レモネードの缶が、冷たい。

「懐かしいっすね。……俺、オーロラの笑顔、好きだったっすよ。いっつもがちがちだったけど、俺が来た時だけフワフワするから。」

「……なにそれ」

「へへへ、今みたいな顔っすよ。……安心が、ある顔。」

………安心。

あなたは続ける。

……随分顔色もよくなってるし。ここに来てから、いいことあったっすね。よかった。大丈夫、それ、全部、夢じゃないっすよ。」

そういって、かぶっていた帽子を私にかぶせる。

…………なんだか、守られている気がした。

……。

私も、あなたに、笑顔のままで、いてほしい。

「…………ねえ」

「なんすか?オーロラ。」

「貴方に届けるとしたら、わたし、なにすればいいかしら」

あなたはわざとらしく腕を組んで、頬杖を突く。

「…………そうっすねぇ。」

にこやかに笑うあなたは、ゆっくりと、口をうごかした。

​「ぼくらのつながりは、やっぱり、バレエっすよ。」

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