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21,06,03 Day3 明晰夢

​……眠れなかった。

いや、確かに寝ていたし夢を見ていたはずなのに、なぜか起きてしまったから薬を飲んで、それでも眠れなくて。ぼんやりしたまま、それでも働かなきゃと思って働いて。

作業も同じで、また、色んな化け物のところを回って、回って、回って。

……眠くて仕方ない。

あんなに気持ち悪かったあの……オーナメントみたいな…天使みたいな…やつにあっても、ずっと微睡んでいて。

眠りたいの?って聞かれて、そしたら崩れるように倒れて、まぶたがおちてきて。

何度が気絶、した気がする。分からない、けど。…それで……いつのことか分からない何かをみた……あの………えーっと……思い出せない。

ただ、眠って。覚めなくて。

変な夢だと思った。全身リボンに巻かれてるみたいで足も動かなくて、頭がぼーっとして……まるで死んだ時みたいだと思った。

早く眠りたい。

死んだ時?そういえば死んでいたんだっけ。

どうでもいいか。

視界がゆらゆらする。

カーテンの横にいたあなたの顔を見ている。

あなたはそのまま黙って私を見つめている。

……なんとなく、また眠い。

ただ寝てたいだけなのにどうしてこんなに夢ばかり。

……音がして…知ってる人の声が…して……

最近ずっといる…よく分かんない女の人……が……解こ… 解こうとしてるの?

なんか、指示出してるみたいだけど、よく聞こえない。

というか、なんで来たの。死ぬのに。

お人好しにも程が ……あ、そんなだからこの人は死んだのか。

そんなこと言ったってほっとけないって。手を伸ばしたりなんかして。

だとしたら、ますます私といたら駄目だ。

……私…なんか知ってる。

そうやって変な気ばっかり起こすから上手くいかなくて。

そうやって伸ばした人に、気持ちが揺らいで、私じゃなくなるんだ。

……だめ。……だめだ。

手を伸ばす資格なんかないの。

ゆるされない。ゆるさない。

……何が?…でもダメなの。そんなことしたら、殺される。

殺されちゃうんだ。

だからダメなんだよ。

許されないの。

早く向こうに逃げてよ。逃げて。

ねぇ、こないでよ…

力が入らない。 リボンがぐるぐる巻になって身体を引っ張る。

なのに貴方ったらそんなに乗り出して。

そんなふうに手を伸ばさないで。

いつもみたいに、声をかけないで。

悲しそうな目で見ないで。

きっと、また、間違えてしまうから。

早く。

「……にげてよ。」

銃声がして、血が見えて、今回は間があって、

あなたの手がこっち側に落ちてくのを見ていた。

崩れて行って最後に光が消えていきそうで。

いつも通りの痛覚なんてどうでもよかった。

だから逃げてって言ったのに。何で来るの。

馬鹿じゃないの。 無駄にしないでよ。

あなたのお人好しは他の人に使ってよ。

私なんかじゃなくて。

もっといい人に使ってよ。

ねぇ。

……貴方まで許されないことしたら駄目だよ。レーテさん。

目が、覚めた。確かに覚めた。

……彼女は。

起き上がって周囲を見ていなくて。

本当にわたしのせいでいなくなってしまった気がして。

部屋を見回してもいなくて。

……。

先に、お仕事……であってほしいと思って出ようとしたら、

目の前に突然大きな影。

静止。

貴方だった。

打たれた箇所が見えるように背伸びして。

良かった、貴方には傷はついてない。

瞳を見て。良かった、光はなくなっていない。

……壊してない、壊れてない、元の彼女のまんま。

「……あとは残ってないのね。とりあえず。」

ぽっと出の言葉。

「?はい。

貴方も……傷は消えているようで。よかったです。」

ふわふわな言葉。

……目をそらす。はあ、良かった。いつも通りね。

どっ、と疲れが襲ってきて、肩を回すと貴方が

「水、飲みますか」

なんて言ってペットボトルを差し出す。

……そこまでいつも通りだと、流石にあきれてしまう。

自分がなにしたか、分かってるの?

「貴方、どこまでお人よしなの?……何でそこまでするの?

……持ってきた分は、いいけど。」

付け足す。なんだかまた戻したりしそうじゃない、この堅物さだと。

そしたら、

「なんで……?」

って、言って固まってしまうし。そのまま、顎に手を当てて、黙り込んで、

「なんで、でしょう。考えたことありませんでした。

私はそうでありたくて、そうあるべきで……?」

なにそれ。

しかも、ワザとにしても自然すぎる下げ繭で、

「……結局あなたのことは助けられませんでしたが。」

なんて。

あなたが水をのどに流し込む。

ごくごくごくっ、っと音を立てて水は消えていく。

……なによ、それは。

「……そこよ。」

なんなの。

「何で助けようとしたの。」

私なんか構ったって無駄なの。

「貴方に損しかないじゃない」

そうやってまた無駄にするの。

「……そもそも、契約すら曖昧なのに」

何にも対等でもなくて。勝手に殺されて、勝手に殺して。
残ったものは、なにもなくて。

「……嘘ついてて、騙されて。とか。考えないの?」

全部、全部、なくなっちゃって、どうしようもなくて、私のせいで、私の所為だから私は許されなくて。私が悪いから、巻き込まれたあなたも悪くなっちゃって。私が殺して。私に殺されて。全部無駄にしちゃって。もう先なんかなくて。目覚めているだけ無駄で。私が、わたしが、わたしが。

わたしなんて、いなきゃよかったのに。

このままいなくなればいいのに。

「………………なんで、わたし?」

わかんないよ。

めまいがしてきた。それでも、貴方はまだそこにいる。

何も変わらずに、そこにいる。

「貴方と……ちゃんと友達になりたくて。初めこそ成り行きで同行していましたが。しばらく経っても貴方のことは他の方々より分かりませんでした。それで俄然興味がわいてしまって。」

淡々とした言い方で、話す。その口が、同じ言葉を言って。

わからない。のが、同じ?

「私はその、分からないことは時間がかかっても分かるようになりたいのです。もしかしたら貴方でなくてもよかったのかもしれませんが、私が見つけたのは貴方でした。」

そういって、しゃがんで、頭が同じ高さになって、そのままの調子で

「でも、まだまだ何も分かりませんね。昨日も今も、貴方がどうしてそんな顔をしてしまったのか全然わかりません。

……嫌なこと、言ってしまいましたか。」

なんにも変わらず話す。見定めたり、見比べたりしない、ひどく静かな目で。

……嘘も通じないし、中身も、見えないって言うの。

……何も取らないし、何も奪わないし、何もあげないし。

何も強勢しないのに、いっしょ、で。

……どうして?

言葉が出ない。息を、整える。平坦で、変化がないあなたを見ている。

「……いやじゃない、けど、しらない。わかんない。

……ほっとけばいいのに、なんで」

何もないなら、何もしないならいないはずで。いらないはずで。

……なんもだせていなくて。

…………むしろ、ぐっちゃぐちゃにしてるのに。

「友人とは、助け合うものですから。」

なんて、言って。

触ろうとした手にまで気を使って。

「もう少し休んでから戻りましょうか。」

そういって、嘘じゃない笑顔を、したの。

…………。

でも…レーテさんは私じゃなくなった私なんて知らないから。

きっと、その時が来たらさようならなんだ。

「……。」

でも。これ以上、さよならなんて、あるのかしら。

そんなことも分からない。

「……。」

微笑みが、苦しくて。目をそらして。

でも。

なんだかもう、選択もなく、いるんだったら。友達、なんだったら。

「うん。」

もういっそ、諦めようと思った。

手を、差し出す。

「握手、する?」

手を見て私を見るレーテさん。

立ち上がったら、私よりよっぽど大人に見えた。

「はい、しましょう。」

律儀に隙間をあけて、手を出してくれる。

いいですか、握手というものは敵対ではないという意思表示です。

先輩に教わった言葉がなぜか出てきた。

ゆっくりと、つめて。指を、合わせて。

だから、契約の時はなるべく行ったほうが良いですし、応えないということは宣戦布告ととらえられてしまうかもしれません。

ゆっくり、自分のこわばりを、騙して。

友好関係を築きたいなら、仲良くしたいなら。

……。

ぎゅって、した。

生暖かいのに、嫌な感じはしなかった。

その後、しばらくして、私から離してして、仕事に戻ったとき、

ふと、思った。

この人は……師匠だった、「くるみ割り人形」に似ている。

​妙に納得して、なんとなく、落ち着かなくて、また、床を蹴った。

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