99,06,03 4 years 埋もれる真珠
「いいですか、握手は敵意のないことの証明です。だから、私たちは契約が成立したら手を結びます。」
「クララ」は、そういって前に手を出した。
「私は、あなたが触るのに抵抗があることを知っているので、何も言いませんが。本来は、しっかりと握る物です。 手に、武器を隠せるかもしれませんからね。」
言っていることはよくわかる。
「でも、だって。もってるかも、しれないでしょ。……」
「ええ、だから、選ぶ権利はあります。オーロラさんが、嫌だったらいいんですよ。 ……ただ、武器を向けなくていい人が、殺しに来たりもします。覚えておくように。」
クララはそういって、目の前に手を出した。
「私はどうでしょう。オーロラさん。私の事は、信用に足りますか。」
……そう言われると、考える。
確かに、今まで「クララ」は、隣にいただけで、叩いたりも蹴ったりもしてこない。
……し、ねるところもそばで、……何も無くなってないし、……こわいときに、かわいいものを見せてくれる人だ。
だから、きっと、しんよう、っていうのには。だいじょうぶなんだと思う。 「……。」 手をゆっくり、のばして、先を、ちょん、ってする。 ちょん。
って、したとき、頭の中がざわ、ってしたけど。
前を見たら、「クララ」がわたしを見てて、そこのリボンが鮮やかで。
もうちょい、すすめて、きゅ、ってした。
「……ありがとうございます。」
「クララ」は、わたしの手の上に、もう片方の手を重ねて、ほほえんだ。
……すこし、くすぐったかった。
「クララ」は、不思議な人だった。
初めにあった時は、ただ少し離れたところにいて、震えるわたしを見向きもせずに事務仕事をしていたし、そのまんま数日過ごした。
管が体に刺さっていたが、あれは点滴だったんだと思う。
そのあと、わたしのもとに小さなはこを持ってきて(ぶたれなかった)、缶の飲み物とコップをふたつ、おいた。
両方に、ジュースを注いで、 片方を、目の前で飲んで。
「……こうするんです。今缶を開けたので絶対に仕込みはありません。コップも同じです。私が飲んだのと交換してもかまいません。……」
とだけいって、隣で自分の分を口つけていた。
……そして、そのまま二つ分置いて、また仕事に戻ったみたいだった。
……よくはわからなかった…けど、なんとなく、やらないといけない気がして、とって、 やりすぎてこぼして、 見られて、 こわくて、 身構えたけど遠く離れていて。 ……こっち側にはこなくて、
「……もういちど。」
それだけいって、また別の仕事をしていた。
この人は……近づいてはこないんだ。
無理に押し付けたり、殴ったり、しないんだって、思って。
……残ってた方で、また、やって。
そしたら、さっきよりは、飲めて。
見られて、 身構えて、 そしたら、その人は、頷いて。
「飲めましたね。そうやるんです。そのジュースは、あなたのですから。同じように。」
それだけいって、また、遠くから見ていて。
飲み終わった後に、違う服を持ってきて、 反対側においた。
「着替えです、カーテンのところでどうぞ。」
そう言ったっきり、今度は、別の部屋に行く。
……。
カーテン、と言われた方向に行って。
そこには、沢山の服やドレスがあって、全部、ふりふりとしていて、リボンがあって。
一面に広がる色とりどりに、びっくりして、じーっと見つめた。
ドアの閉まる音に、びっくりして。
横から覗くと、そこには「クララ」がいて、バケツと布巾をもっていて。
怖くなって、隠れて、頭を押さえた ……けど、なにもなくて。
「……」 なんかあるのかと、身構えてのぞいたら、
そこには、いつも自分がするように拭いている「クララ」がいて。
……わからなくなって。
見られて。
隠れて。
……今度は、少しずつ近づく足音がして。
「……着替え終わりました?」
声がして。
でもそこから近づく気配もなくて。
「……まだですか。」
どうすればいいのか、わからなくて、隠れたまま、動けなくて。
「……オーロラ、さん?」
……声がして、服をかき分ける音がして、
「クララ」さんが、向こうに座ってて。
…………。
わたしは。
「……まだ、です。」
それだけ言葉にして、突然現れた御伽噺のものの中に隠れた。
……今までと、違うものの中に、埋もれて。
いつの間にか寝てても、「クララ」は何も言わなかった。